夜まで何も食べられなかったあの日──気力がごっそり抜ける“夜のめんどくささ”
夕方、窓の外がすっかり暗くなったころ。
あかりは、布団の上でぼんやり天井を見つめていました。
右手は、肘から指先までしっかり固定されたまま。
日中と同じ姿勢を続けていたせいか、重さがじわ…っと肩まで響いてくる。
「……まだ何も食べてないなぁ」
声に出すと、胸の内側がじんわり痛くなる。
食べていないのに、お腹がすかない。
むしろ、食べることを考えるのがしんどい。
冷蔵庫に向かう気力がわかない。
何を温めるか考えるだけで、頭の奥が重くなる。
“作るのは無理”
“選ぶのも無理”
“洗うなんてもっと無理”
そして──
“夜だから余計にさみしくなる”
右手が自由に動かない生活では、夕方から夜にかけて気力がさらに落ちていくことが多い。
あかりはそれを、骨折してから何度も経験してきました。

そのとき。
「……あかり、だいじょうぶ?」
足元で、小さなもこもこが揺れました。
ぱせりんです。
今日も手に小さな包帯を巻いて、ほわっとした顔であかりを見上げていました。
「夜はね、気持ちがしんどくなりやすいんだよ。
きょうは“生き延びるひと口”だけで、じゅうぶんだよ」
その声を聞いた瞬間、胸の奥で固まっていたものがふっとほぐれます。
「でも……夜ごはん、つくらなきゃ……って、ずっと思ってて」
「つくらなくていい日があっても、いいんだよ。
空っぽのまま寝ちゃうのが不安なら、“ひと口だけ”食べよ?」
ぱせりんの言葉に、あかりは静かにうなずきました。
夜まで食べられなかった日は、
“弱さ”ではなく “体と心が休みたがっているサイン”。
それを、あかりは少しずつ受け入れられるようになっていました。
“夜のつなぎごはん” という考え方──寝つきを悪くしない、体を守る最小のひと口
右手は胸の前で固定されたまま、
あかりはそっとベッドから上体を起こしました。
部屋の照明は、天井のライトではなく、
やわらかい間接灯だけ。
夜になると、明るすぎる光が心に刺さることがある。
そんな日の “このくらいでいい” を、彼女は少しずつ覚えてきていました。
「……何か食べたほうがいいよね。でも、がっつりは無理だなぁ」
その小さなつぶやきに、胸の奥がまた重くなる。
(“食べなきゃ”って思うだけで疲れちゃう日ってあるよね……
右手も痛いし、気力もないし……)
そんなときに思い出すのが、
あかり自身がつけた名前──
✨ “夜のつなぎごはん”
夜は、一日の疲れがどっと押し寄せる時間。
肩も重いし、手首も痛むし、心のエネルギーも底をつく。
そんなときの “つなぎごはん” は、
- 朝ほどがんばらなくていい
- 昼のように栄養バランスを意識しなくていい
- “寝つきを悪くしない” を優先する
ただそれだけの、体を守る最小限のひと口。
(“ごはん”というより、“今日を終わらせるためのひと口”って感じだな……)
量も、種類も、きれいさも関係ない。
“今の自分が食べられるものを、食べられるだけでいい” という考え方。
むしろ、無理に食べようとすると胃が重くなり、
夜がさらにしんどくなることもある。
だからあかりは、
「軽い」「あたたかい」「片手で扱える」
この3つだけを“ゆるい目安”として心に置いています。
(“落としそう”って思うだけで気力が削られるんだよね……
だから片手で持てる軽さはほんと大事)

そのとき、あかりの視線の端で、小さな緑色の影がふわっと揺れました。
いつものぱせりん……のはずなのに、
今日は頭のてっぺんから、ちょこんと小さな芽が伸びている。
(あれ……今日のぱせりん、なんか“芽”が出てる……?
なんだろ、この“がんばった日の特別バージョン”みたいな感じ……)
芽つきぱせりんは、ほんのり笑っているようで、
まるで “大丈夫だよ” と言ってくれているみたいでした。
ぱせりんが、ふわっと笑いながら言いました。
「“眠る前に体を守るひと口” って思えばいいんだよ。
がんばって食べるんじゃなくて、じぶんを休ませるためのひと口」
その言葉に、あかりは胸がじんとしました。
(休ませるためのひと口……
それなら、私にもできる気がする……)
やわらかく肩の力が抜けて、
あかりはそっと息を吐きました。その呼吸だけで、夜の重さが少しだけほどける。
◆ 夜にそっと思い出したい“あかりの小さなルール” ✨
夜のつなぎごはんは、
「これを食べよう」ではなく、
“こういう気持ちでいれば大丈夫”
というあかりの小さな指針。
(落としそう、重そう、と不安になるものは選ばなくていいし……
“いまの自分が扱える”って思えることが、いちばんの安心なんだよね)
ここでは、その心のよりどころだけをそっと置いておきます。
“じゃあ何を食べる?” という具体的なものは、このあとでゆっくり紹介しますね。
罪悪感が強い夜こそ“あかりの3つのやさしい儀式”で心がほぐれていく

夜という時間は、どうしてこんなに心が揺れやすいのでしょう。
昼間は気にならなかったことが、
夜になると急に寂しくなったり、不安が強くなったり。
あかりも、夜は自分を責めてしまうことがありました。
「今日も結局なにもできなかった……」
「食べてないし、体に悪いよね……」
「家族にも心配かけてるかも……」
そんな気持ちで胸がぎゅっとなる夜。
でも、ぱせりんはあかりの隣でゆっくり首を振りました。
「夜のあかりはね、ちょっと敏感になるだけ。
だから、心を休める儀式をしよ?」
あかりは小さくうなずいて、深呼吸をひとつ。
彼女が実際に続けている“夜のやさしい儀式”を紹介します。
① 部屋の光を一つだけにする
夜にまぶしい光は、心の負担になります。
間接照明や小さなライトだけにすると、
気持ちがすっと落ち着く。
キッチンの蛍光灯ではなく、
“暖かい光”を使う。
これだけで
「何かしなきゃ」
という焦りが静かに溶けていくのです。
② 左手だけで温かい飲み物をそっと持つ
右手は完全に固定したまま。
あかりは左手でそっとカップを支えました。
白湯
カフェインレス紅茶
温かい豆乳
冷たい飲み物ではなく、あたたかいものを選ぶのがポイント。
体の中心がふっとゆるむので、
“今日を終える合図” になるからです。
③ “一行だけ”の夜メモを書く
手帳ではなく、スマホのメモでもいい。
たった一行でいい。
「おかゆを温められた」
「今日は横になれた」
「ちゃんと息ができる」
その一行が
“今日も生きてた”
という証になります。
ぱせりんが、そっとあかりの肩に寄り添いました。
「できなかったことじゃなくて、
できたことのほうを見てあげてね」
その言葉に涙がこぼれそうになって、
あかりはゆっくり瞬きをしました。
夜専用“片手で3分以内”つなぎごはんリスト|胃にやさしく翌朝の負担がないものだけ

「夜のつなぎごはんって、
無理をしない“今日を終えるためのひと口”なんだ」と
少しだけ心が軽くなったあかり。
(じゃあ……私の場合、どんなものなら食べられるんだろう?
右手が使えない夜でも、負担にならないものって?)
そんな素朴な疑問がゆっくり浮かんでくる。
そこで、あかりはゆっくり立ち上がり、
冷蔵庫の前に立ちました。
けれどその瞬間、胸の奥にまた不安がよぎります。
「落としたらどうしよう……
重いものは片手ではこわい……」
右手が使えない状態では、
“持つ” “開ける” “温める” のすべてがハードルになる。
だからこそ、あかりは夜のつなぎごはんを選ぶとき、
こんな4つの基準を大事にしています。
- 軽い
- やわらかい
- 火を使わない
- 洗い物が増えない
(夜は、これくらいシンプルでいいんだよね……
片手生活になって初めて気づいたことだけど)
ここからは、あかりが実際に助けられた
“夜専用のつなぎごはん”を紹介していきます。
どれも “今日を終えるためのひと口” をやさしく支えてくれるものばかり。
◆ ① 3分雑炊(レンジorそのまま)
150gほどの少量が安心。
あたたかさでお腹がふっと落ちつく。
噛む負担も少なく、
「夜はこれくらいでいい」が自然に受け入れられる。
◆ ② 常温ポタージュ(紙パック)
注ぐだけ。
右手を使わずに開封できるタイプは特にありがたい。
(“何もしたくない夜”に、ほんとうに助かる存在)
◆ ③ 飲む甘酒(50〜80mlだけ)
飲みすぎない少量なら、
ほんのり体が温まり、血糖値がやさしく上がる感じがする。
(“ちょっと元気になれた気がする…”
その小さな感覚が大事なんだよね)
◆ ④ ヨーグルト+ハチミツ
左手で扱いやすく、
トロッとした食感が夜の喉にすっと入る。
(ハチミツを少し落とすだけで、
“自分を大事にしてる”って感じがして好き)
◆ ⑤ 温泉卵+おかゆ少量
片手生活でも扱いやすい組み合わせ。
重すぎず、満たされすぎず、夜向きのやさしさ。
◆ ⑥ 飲むゼリー(半分だけ)
「今日はもう何も無理」という日に。
半分で十分、むしろ“半分だけ”がちょうどいい。
蓋を開ける気力すらない日は、
これが救いになる。
ぱせりんがそっと言いました。
「ね、あかり。
夜はね、“足りないくらい”でちょうどいいんだよ。
明日のあなたが、ちょっと笑えるように。」
あかりは温かい雑炊をひと口だけ食べました。
そのわずかなひと口が、
胸の奥をふっとゆるめていく。
“食べられなかった”ではなく、
“1だけ進めた” 夜。
それだけで、明日がほんの少し優しくなるのです。
「今日は何もできなかった…」が「今日をちゃんと越えられた」に変わる夜の瞬間

夜の静けさのなかで、あかりは湯気の立つカップをゆっくりテーブルに置きました。
右手は胸の前で動かないまま。
でも、左手だけで“今日の自分を支えたひと口”を食べられた。
「……これで、今日は終わっていいんだよね」
ぱせりんは、こくりとうなずきました。
「うん。
今日のあかりは、今日をちゃんと越えたよ。
できることを一つだけしてくれた。
それだけで、ほんとうにすごいことなんだよ」
胸がじん、と温かくなり、
涙が静かにこぼれそうになる。
“食べられなかったこと”
ではなく、
“ひと口だけでも食べられたこと”
そこに目を向けてあげられた夜。
これこそ、骨折生活を続けるうえでとても大切な一歩。
あかりは、そっと目を閉じました。
「……うん。
今日の私は、今日をちゃんと越えられた」
ゆっくり息を吐くと、
右手の重たさすら、少しだけ優しく思える。
ぱせりんが、包帯の右手をぽん、と上げて言いました。
「おやすみ、あかり。
また明日のあなたを、ここから応援してるよ」
あかりは小さな声で「ありがとう」と返し、
やわらかい夜の安心に包まれながら眠りにつきました。
あかりが次に読みたい“心をほどくヒント” ✨

夜のつなぎごはんをひと口食べたあと、
あかりはそっと息を吐きました。
(……なんだろう。ほんの少しだけ、気持ちに隙間ができたみたい)
右手の重さは変わらないのに、
胸の奥の重苦しさだけが、少し薄くなる感じがする。
そんなあかりの様子を見て、ぱせりんがふわっと微笑みました。
「ねぇあかり。
“ひと口”ができた日はね、
ちょっとだけ心に余裕が生まれるんだよ。
その余裕で、こういう読み物に触れると…もっと楽になれるよ」
「……うん。
なんとなく、今なら読める気がする」
ぱせりんに背中を押されるように、
あかりが次にひらきたくなる“やさしい読み物”たち。
👉 利き手を骨折して一人暮らしがつらい時の食事|コンビニ・ネット活用と“罪悪感を減らす”コツ【右手骨折】
(あの日みたいに“何もできない”って泣きそうになったとき、
こういう記事が、ほんとに救いになるんだよね…)
👉 利き手を骨折して食事がつらいときの工夫|片手でできる準備・姿勢・サポートまとめ
(片手でやるって、ほんの小さな工夫でしんどさが変わるんだ…
“知る”って、こんなに心が軽くなるんだって思えた記事)
👉 骨折を早く治す食事|右手が使えない日でも食べやすい“治癒を助ける食材”まとめ
(“治る方向に向かってる”って実感すると、
それだけで気持ちが前を向けるんだよね)
ぱせりんが、小さな声でそっと付け加えました。
「読むだけでいいんだよ、あかり。
行動できなくても、知識をひとつ持つだけで、
明日のあなたがちょっと助かるからね」
あかりは、ほんのりあたたかい気持ちで頷きました。
🌎 外部リンク(やさしく参考になるもの)
✔ 厚生労働省:食事バランスガイド|健康日本21(出典:厚生労働省)
(“偏りすぎかも…”と焦る日に安心をくれる指針です)
(これ、前に読んだとき、
“完璧じゃなくていいんだ”って心がふっと軽くなったんだよね)
ぱせりんが最後に、いつもの小さな声であかりに寄り添います。
「今日のあかりは、今日のあかりのままで大丈夫だよ。
ひとつ読んでみようか。
読みながら、ゆっくり夜を越えていこうね」





